100人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は逃げ出した。
正面からぶつかって勝てない相手ではないが
なんせ相手は妊婦だ。
とにかく逃げるが勝ちだと思った。
廊下の先の先。
目指す場所なんて考えていなかったけれど。
ドスドスとすさまじい足音が迫ってくる。
体重の増加などもろともせず
光る刃先は執拗に僕に追ってきていた。
恐怖と驚愕で眩暈がする。
廊下の角を折れた先に現れたのはバルコニーに続くドアだった。
普段は使わない。
固く鍵がかかっていた。
あとは行き止まりだ。
「お待ちなさい……和樹っ……!どうして逃げるのよ?」
指が汗で滑って鍵が開かない。
「クソッ……」
そうこうしているうちに
どんどん距離が縮まっていった。
「あら、ここが墓場」
息を切らす僕を貴恵がせせら笑う。
毟られた黒い羽が暗い花道を歩く女王の上に舞い散った。
ついに追い詰められた。
最初のコメントを投稿しよう!