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貴恵は僕の脚を狙って
ペーパーナイフを突き立てた。
「そんなにあの人が大事?命よりも?」
傷は浅くとも
まずは獲物の動きを封じるためだ。
「汚らわしい浮気者のクセに!」
バルコニーの手すりに背中がぶつかる。
つまり
もう逃げ場はないわけだ――。
刺された腿から血が滲んだ。
「汚らわしい?弟と夫を殺めようとしているあんたがよく言う!」
興奮しているからか
痛みより焼けるような熱さを覚えた。
「憎んでんのは僕だけだろ?あの人のことは愛してるんだ!」
「黙れ!黙れ!黙れ!」
貴恵はなりふり構わず叫んだ。
だけど――黙れと言われて僕が黙った事は?
「ホントはあの人の子供が欲しかったんだ。なのに哀れだな!見向きもされないから弟の子を身籠った!」
この時鏡を見れば
僕も姉と似たり寄ったりの悪魔だったと思う。
脚に穴をあけられた分
心底意地悪く最も深い心の傷を抉ろうとしていた。
「本当に――殺して欲しいのね」
当然のことながら
ついに女王様の怒りは沸点に達した。
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