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どれほど眠りに落ちていただろうか。
意識が徐々に覚めていくと同時に、肩から脇腹にかけて、固くて冷たい感触を覚えた。
男はゆっくりと目を開けた。金網越しに差し込む朝日が眩しかった。
男は即座に、己の身に起きた異変を感じ、身を起こして立ち上がろうとしたが、バランスを崩して冷たいコンクリートの床に倒れ込んでしまった。
その手足は情けないほど短くなり、茶色い剛毛がびっしりと生えていた。
今度はゆっくり身体を起こすと、男は四つん這いの格好になった。これでようやく体の均衡を取ることができた。
男はゆっくりと顔を上げた。驚くほど視界が広くなり、前を向いたままで小屋の中のほとんどを見渡すことができた。前の方へと歩みを進めると、すぐに鼻先が金網にぶつかり、驚いて後ずさりした。
視野が広くなった代償なのか、物の奥行きがよく見極められなくなっていた。
視界の脇で、もぞもぞとうごめく固まりを捉えた。頭を傾げると、三匹のテンジクネズミが身体を寄せ合い、こちらをじっと見つめていた。
突然、小屋の扉が乱暴に開けられ、青い作業着を着た小男が入ってきた。小男は小屋の中に無造作に置かれたプラスチックの洗濯桶に、持っていたバケツに入った野菜や果物のカスをひっくり返し、小屋の中の獣を一瞥することもなく出ていった。
さて、男が仰天したのは、突然小男が侵入してきたことより、その男が僅かな間に残して行った悪臭であった。汗と脂とタバコ臭が混ざり合った臭いは、普段さほど気になる類のものではなかった筈だが、それを鼻にした瞬間、胸の奥から猛烈な吐き気が込み上げてきて、男は呻き声とも言えぬ音を口から発して思わずその場にうずくまった。
やがて、ようやく吐き気が収まった頃、そろそろと顔を上げると、今度は別の香りが男の鼻孔を擽った。
それは半分腐りかけた野菜と果物屑の放つ、酸を帯びた臭いであった。どういう訳か、男にはこの臭気が、芳醇な果実が香ばしさを纏ったように感じられ、空の胃袋を刺激して仕方がなかった。
考えてみれば、一昨日の晩から水分以外、何も口にしていないのだ。気づかぬうちに、横に広がった口の脇から、唾液がぼたぼたと垂れていた。
男は抑え難い衝動に突き動かされるようにして、腐りかけの餌が入った洗濯桶へと歩み寄っていった。
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