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おい。
突然、男の脳天に声が響いた。ビクッとして、辺りを見回す。しかし、広くなった視界を以ってしても、周囲に人影を捉えることはなかった。
もう一度、顔を突っ込もうと、短い首をいっぱいに伸ばしたところ、
おい。
再び、脳天に声が響いた。
頭を横に振ると、小屋の隅で固まっていたテンジクネズミのうちの一匹が起き上がり、こちらをじっと見据えていた。
男は得体の知れぬ威圧感を感じ、思わず後ずさりした。分厚い毛越しに、尻が冷たい金網に触れたのが分かった。
臭いぞ、お前。人間臭い。
今度は、よりはっきりと大きく、脳内で声がした。テンジクネズミの一匹が、男の方にじりじりとにじり寄って来た。
男は尻を金網に擦り付けたまま、後退りした。テンジクネズミは立ち止まり、しばらく男を見据えていたが、やがて十分な距離が取れたとみたのか、男から視線を外すと、洗濯桶に歩み寄り、ゆっくりとその中に顔を沈めた。
小屋の隅でその様子を見ていた残りの二匹も、そろそろと桶に歩み寄ると、揃ってもそもそと朝の採餌を始めたのであった。
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