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陽が高く昇り、小屋へと差し込む光が陰って来た頃、徐々に園内が賑わいを増してきた。
いつもは昼間も人影まばらな市民公園であるが、小春日和の週末を迎えた今日は、手近な場所で余暇を過ごしたい人々が集まってきているのだった。
男は、あいも変わらず金網の側で横になり、陽の光で体温が上がるに連れ、眠気を催しウトウトしていた。
不意に、濃い草の匂いが男の鼻孔を刺激して、男は目を覚ました。男の目の位置からは、自分の鼻先にあるものを捉えることはできない。しかし、草刈り後の雑草が放つ香りを濃縮したかのような匂いは、その正体を視覚に捉えるまでもなく、男の鼻孔を刺激し、胃袋を痙攣せしめた。
男は殆ど本能的な衝動に突き動かされ、大きく口を開くと激しく咀嚼した。その歯と舌が捉えたのは、硬い繊維の感触と、強いえぐみを伴う干し草の味であった。噛むほどに草の風味が口腔内に広がり、それが堪らぬ美味に感じられ、男はここ数日来忘れていた食への欲が解放され、その悦びに涙までも垂れ流しながら、貪るように咀嚼し続けた。
…さん、おなか、すいてるのかな
金網の向こう側から、聞き馴染みのある声がして、男は我にかえり、声の方へ眼球だけをぎょろりと動かした。
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