テンジクネズミ

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 男にしてみれば、娘の面倒を看るために妻はパートで働いているのだし、そもそも時短で済む仕事など他で幾らでも埋め合わせが効くであろうから、娘の容体が悪くなった時に妻の方が仕事に穴を開けるのは当然であり、寧ろ働き始めて以来、普段の家事が疎かになっていることについて憤懣を感じていた。  それに、もしも自分が急な休みを取るようなことになれば、会社の誰かに自分の仕事を引き取ってもらわねばならず、いらぬ面倒を周りにかけるばかりか、己の手の内に隠している矮小な誤謬の数々までもが明るみにされてしまうであろう。同僚からは複々出来ない者扱いされ、上司からは説教のひとつふたつを喰らう羽目になるであろうことを想像すると、妻がどれだけ愚痴を溢そうが、仕事をすっぽかして娘のオムツ替えに従事する気になど到底ならないのであった。
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