テンジクネズミ

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 翌朝、目覚まし時計が鳴るよりも早くに男は目を覚ました。  シンクから、食器がカチャカチャとなる音が聞こえた。キッキンで妻が、汚れて積み重なった食器を洗っているところだった。  男は寝室から這い出すと、妻を横目でチラリと見やっただけで、何も言わずにその脇を通り過ぎ、洗面所で顔を洗い始めた。しばらく後、目を覚ましたのか、食器を洗う音の向こう側から娘が泣く声が聞こえてきた。  スーツに着替えて会社仕度が整っていても、娘の泣き声は止まなかった。男は玄関から  「おい、早苗が泣いてるぞ!」 と大声だけを投げつけて、玄関脇に置きっぱなしにしてあった鞄を掴んで家を出ていった。  その日、妻が雇われ先に涙ながらに頭を下げに行き、その足で娘の早苗を連れ、在来線と新幹線を乗り継いで五時間はかかる実家に戻ってしまったことを男が知るのは、日付の変わった深夜を超えた後のことであった。
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