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缶コーヒーと栄養ドリンクが何本も入ったビニール袋を片手にぶら下げ、ふらふらとした足取りのまま、会社近くのコンビニから男が出てきた。口を半開きにしたまま、頭を上げて首をこきこきと回すと、冬の澄んだ空気の向こう側に、点々と光る星空が見えた。
何もかも放り捨てて、どこかへ逃げてしまいたかった。会社の屋上にかけ上がり、柵を飛び越えて真っ逆さまに飛び降りて、鈍い破裂音を立てて今自分が立っている地面に衝突することを妄想してみた。
男は、自死を遂げる人間の気持ちの本質に触れた気がした。そして、今こそ己が心を決め、その一歩を踏み出すことができれば、この苦行のような時間から即座に解放されると思うと、死という結末があたかも暗闇の中に刺す一縷の光のようにすら感じられた。
しかし、会社という組織の中に組み込まれて以来、知らぬうちに意識の中に刷り込まれ、固くこびり付いてしまった責務というものがそうさせたのか、あるいは単純に身を投げる程の甲斐性がなかっただけかは分からぬが、兎に角、男はまたふらふらと歩き出し、先程からきりきりと痛み出した片腹に手を添えながら、誰もいない事務所へと戻っていくのであった。
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