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白い稜線が並ぶ。
九千メートル級の峰々が並ぶヒマラヤ山脈。
神々が住むと言われるその稜線に目を
向けるが、遠景のためかその姿は見えない。
ディサ・フレッドマンは、
屋外を眺めることができる居間にいた。
特にやることもない午後。
仕事は週の頭の三日間で終わらせた。
週末は何かと忙しい。この四日目と五日目の
明日が比較的暇なのだ。
そして、こんな時は、何もしないことが最高の
贅沢だと思っている。何もしない、かといって
昼寝をするわけでもない。
リクライニングチェアに寝転がるが、外を
眺めるわけでもない、考えごとすらしない。
過去のことも、未来のことも、全てを忘れる。
最近の記憶も、子どものころの記憶も、母親
のお腹の中にいた記憶も、単細胞生物だった
ころの記憶も、全て忘れる。
友達のことも、昔のクラスメイトのことも、
仕事のことも親族のことも、昨日のニュース
のことも、学校で習ったすべてのことも、
本で読んだ全ての内容も、
家にいることも、地球上にいることも、
太陽系にいることも、銀河系にいることも、
銀河系が属する銀河団にいることも、そして、
この宇宙に人間として存在することも。
そして、それでどれだけの時間を耐えられる
のかを試してみる。悠久の時間の流れに
身を任せる・・・・・・。
数十分が過ぎていた。
白を基調とした家の中。リビング、ダイニング、
キッチンとほぼ白一色、無駄なものが一切
置かれていない。一方、奥の寝室は暗めの色で
統一されている。
何も考えない時間のときは、ラジオも音楽も
かけない。お香も焚かない。豊かな、贅沢な
時間の使い方をしている、ということすら
忘れるのだ。
外からの情報を一切遮断する。
根本から全てを忘れる作業をやると、その後に
新しい何かが、心の中から生まれてくる。
しかし、忘れる作業を、その何か新しいものを
得るためにやる、と考えても駄目なのだ。
一切の見返りなしで遂行する。
すべてが無駄に終わっても、気にしない。
この宇宙が終わるときに、すべての営みが
無駄に終わったとしても、
一切、気にしない。
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