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「・・私ちょっと先教室戻ってるね。」
頭の中がぐちゃぐちゃになって、
実咲にそうだけ告げて3組の教室に背を向けた。
「え!?なんでよー!」
後ろから実咲が私を呼び止めるけど、
足を止めることは出来なくて。
ごめん実咲。後でちゃんと謝ろう、
そう思って歩き始めた、のだけれど。
「・・・橋本?」
その声に、ピタリと足が止まる。
止めたわけじゃない、止まってしまったのだ。
周りが静かになったのが分かって、
私達に視線が集まっているのを感じる。
「橋本だよな?」
いつの間にか私のすぐ後ろに来ていた彼が、
もう一度名前を呼ぶ。
何とも形容できない感情がこみ上げてきて、
けれど足を進めることが出来なくて。
どうして。
「えっとー、唯花(ゆいか)と知り合いなの?」
「うん、そう。」
「・・多分、人違いじゃないかな。」
振り向く事も出来ず俯く私の後ろで、
実咲の戸惑ったような声が聞こえる。
それはそうだろう。
「・・っ・・」
・・・ああ、もう。
心の中でカウントダウンをする。
じゅー、
きゅう、
はち、
なな・・・
「だって・・・」
実咲が困惑した声色のまま、
言葉を続ける。
ろく、
ごー、
よん、
さん
大きく、息を吸った。
にー、
いち。
「その子、橋本って名前じゃないよ?」
ゼロ。
「・・・え?」
精一杯の笑顔を貼り付けて、
くるっと、勢いよく振り向く。
「そう、私もう橋本じゃないんだ!
・・・久しぶり。」
久しぶりに見る彼は、
記憶の中よりもずっと大人びていた。
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