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「・・私もう、平澤って呼ばれたらすぐ返事できるんだよ。」
そんな些細なことが悲しくて、
それを認識する度、何とも言えない気持ちに襲われて。
「私の事なんてどうも思ってないって分かってたのに・・分かってるのに。
でも私は馬鹿だから!・・一緒にいると、苦しいんだよ。」
言いたい事を全て言い終えて、
ゆっくりと息を吐く。
顔を上げる事は出来なくて、
彼の表情も読み取れなくて。
しばらくの沈黙の後。
彼の腕が伸びてきて、
私の頬を撫でる。
驚いて顔を上げれば、風が頬に染みて。
その時、自分が泣いていたことに初めて気が付いた。
「・・泣きたくないだろ。」
「え・・?」
突然の彼の言葉を理解できずに、
思わず疑問の声を上げてしまう。
「引っ越すって直接言ったら泣いちゃいそうだった。だから言えなかった。」
彼の表情は逆光で見る事は出来なくて。
けれどその声は、とても真剣で。
「小学生男子の見栄だよ。泣きたくないだろ、女子の前で。」
特に・・。
そこまで言って、彼はいったん言葉を止める。
「・・好きな子の前でなんか。」
「っ・・」
不意打ちの言葉に胸が詰まる。
「さっきだってめちゃくちゃ勇気出して言った。笑ってたのだって、平気だからじゃない。・・・笑ってないと泣きそうだったんだよ。」
「でも今回はちゃんと直接言いたかった。小学生の時、すっげー後悔したから。」
色んな感情が溢れ出してきて、
胸がいっぱいになって、また、涙が一粒こぼれる。
「俺親にめちゃくちゃ感謝してんの。橋本って名字にしてくれてありがとうって。」
「っ・・なにそれ・・・」
「これ本当だよ?」
思わず笑ってしまった私に、
橋本くんも笑う。
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