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ついにあたしにも彼氏ができた。 初めての彼氏だ! 夕焼けの河原でロマンチックな告白をされて、あたしの心はメロメロよ。 トオルがあたしを好きなんだって! スゴイっしょ? 一緒に手を繋いで帰ったり、あんな事やそんな事。 あたしはすっかりトオルのモノ。 何もかも初めての経験だから、毎日が新鮮で楽しくて。 こんな日がずっと続くと思ったら、たまらなく幸せだった。 お弁当作ってと言われたのも嬉しかった。 料理なんかした事ないけど頑張った。 味は分からないけど、見栄えはそれなりの物ができた。 お昼休みに走って持っていった。 そしたらあいつ他の女の子と一緒にいたの! 昨日の放課後に彼女から告白されて、付き合う事にしたんだって。 じゃあ、あたしは? あたしはどうなるの? あっさり捨てられた帰り道。とぼとぼと河原の土手を歩く。 楽しかった思い出が頭の中を駆け巡る。 あんなに幸せだったのに。 いっそ死にたい。いや死のう。 痛いのはヤだけど、心が苦しくて辛すぎる。 生きていく希望を失った。 土手に座って鞄からお弁当箱を取り出す。 食べ物を粗末にしないのはあたしの主義だ。 自分の命は粗末にしても、食べ物を粗末にするのはありえない。 あの日と同じ夕焼けが河原を照らす。 涙がこぼれてお弁当に落ちる。 一口、箸を付けて吐きそうになった。 お弁当箱を土手に置いて、下の道路へ全力で走る。 転びそうになりながら自販機に辿り着く。 こみあげる吐き気と口の中身を、ペットボトルのお茶で無理やり流し込む。 ……なに、アレ? あんなマズイ物、初めて食べたよ。 何がどうしてあんなに酷い味になったんだ? そりゃ味見なんかしてなかったけど、 それにしたってアレは酷い。 でも、あたしが作ったお弁当だ。 土手に座り直して覚悟を決める。 絶対に食べ物を粗末にしない。 あたしは自分のモノを簡単に捨てない。 お弁当箱が空になる頃には全身汗だくで、 流れる雫が汗か涙か、自分でも分からないありさまだ。 完食にはペットボトルがさらに三本必要だった。 気がつけば日はすっかり暮れていて、 死にたいと思う気持ちはどこかに消えていた。 すごいな、あたしのお弁当。 うん。あたしってスゴイや。 お弁当箱を持って立ち上がる。 ゴミは持ち帰るけど、恋心は捨てていこう。 もう、あたしのモノじゃないからね。
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