レジェンドになった日

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レジェンドになった日

 目が覚めるとそこには巨大な門があった。  上に(そび)え、左右に広がり、上端も両端も薄明の中に消えている。  ブロンズ製だろうか、緑色の分厚い両開きの扉には苦悶する人のような怪獣のような彫刻(レリーフ)が施されている。よくわからないなぁと彫刻を確かめるために一歩近づいた時、ギ、ギ、ギギイと重たそうな音を立てながら扉が内側から開かれ、こぼれだした(まばゆ)い光と熱気と興奮に僕は包まれた。中には大勢の人がみえるのだが、逆光なので顔は判然としない。  熱い空気に感染したのだろうか、僕の気分もひどく昂ぶってきた。自分の姿を目で確認する。糊がきいた真っ白なワイシャツ。ダークグレーの上質なスーツ。ネクタイの長さもベスト。靴も磨き上げてある。よし、完璧だ。そう思ったちょうどその時、 「タムラハルオ君」 僕の名前が読み上げられた。 「行って来い」 いつの間にか僕の周りにいた人たちに肩をバンバン叩かれ、背中をドンと押され、その勢いのまま僕は舞台への階段を駆け上がった。  わぁあああという地の底から響くような歓声。ぼくは興奮で目が回りそうだった。 「タムラ君、君は我が社最年少でここまでやってきた。いやあ素晴らしい」     
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