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細長いグラスになんちゃってチーズケーキを盛り、プディングと一緒に冷蔵庫で冷している間、使った道具を片付け、珈琲を入れてみた。これは豆と共にサイフォンの道具が一式揃っていた。
「ところでさっきのナイフ、あれって何なんですか?」
「それは聞かないで欲しかったな。」
珈琲の芳香で顎を炙りながら、男は唸った。
「あれは、祖父の形見の一つなんだが。」
受け継いだ刀の鞘に嵌っていた『手裏剣の様な物』と男は説明してくれたが、本体よりも軽く、隠しやすい小刀を持ち歩くようになったのだという。
僕としては、なんでそんな物騒なモノを持ち歩いてるのかが腑に落ちないんだが……。
だが、男の僕への疑問は、もう少し違っていた。
「君はナイフが飛んで来ても、落ち着いて居たな。」
「あ、パティスリーでは聞かないんですけど、昔気質の頭領の店で偶にあるらしくって。」
「で、君は、そういう話を聴く環境で育って来た訳だ。」
「先輩から、下手に動くと危ない、とは聴いた事がありますが。」
先輩から聞いてなかったら、僕の鼻は今頃僕の顔からおさらばしていただろう。
僕は無くならずに済んだ鼻をカップに突っ込むようにして珈琲を啜った。 鼻は珈琲の香りを拾い、芳香が心を落ち着かせる。
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