第2章「夏空へ」

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「わッ!」  声に視線を上げたら、波瀬が覗き込んでいた。  うさぎのアイコンを見たやつの目が、実に楽しそうに弓なりになってゆく。 「天海が女の子とラインー!」  やたらと大きな声で波瀬がそう言うと、近くにいた花園が駆け寄ってきた。  ムダに早い。 「なになになになになに」 「いや、ちょっ、なんでもないって、高校んときの同級……」 「彼女!? かわいい?」 「ま、まだちがう! かわいいけど!」 「まだか! わかったわかった。で、写メは? どーれどれ」 「やめろって、あっ、ちょっ、スマホ返っ」  波瀬と花園が悪ノリしている間に、どこからか騒ぎを聞きつけた他の連中までもが参加してくる。 「あ、この子? ショートかー」 「ちがう、そっちのロングの方! じゃなくてスマホ返……」 「あれ? これだれ。かわいい」 「それは姉ちゃんだから! スマホ返……」  なんとか取り返そうとするが、面白い話題に飢えているせいか収集がつかない。これは一人で抵抗しても無理だ、ものすごく一糸乱れぬ全体行動だ。  妙なところでわずか数ヶ月の間にこの集団行動を身につけた同期に感心していたら、花園がトーンのちがう声をあげた。 「あれ、もしかしてまだ返信してない?」
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