第1章「はじまりの朝」

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「富木一尉が入ってきて。でも音もしないし気配もないし、透明人間? んで、寝てた花園が連行されていった。なんも言えないつうか、圧がすごかった」 「透明人間って、そんな」  ありえない。  富木一尉は戸口に立たれると壁になるし、その怒鳴り声は郡庁舎の端にいても聞こえる大柄なだけの、普通の人間だ。多分。  おまけに教場のドアは、ガタガタの年季が入った引き戸だ。  どう考えても音もなく入ってこれるわけがない。と、笑おうとしたら、かなり遠い席に座っているはずの井達が真顔で声をあげた。 「ステルスだ、ステルス!」  ああ、と教場にどよめきが広がった。  そういえば、モモさんが言ってた。  休憩時間になり皆で扉を開け閉めしてみたが、どうやってもギシギシのガタガタだ。 「そういや、富木一尉も航学出身だって」 「まじで」 「中隊長に聞いた。なんかやらかすとボッコボコにされた時代だったって」 「ボコボコって……」  筋金入りの時代を経験すると、ステルス機能が装備できるのか。 「……帰ってこないな、花園」  講師がもどってきて授業は再開され、しばらくして戻った花園は硬い表情で何も言わなかった。ただ、その後は眠る回数が減ったような気がした。
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