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ヒナノヒトガタ
その日、可愛い孫の特別なプレゼントを買いに、三上彬は一人とある骨董品屋に向かっていた。
その骨董品屋は、かなりへんぴな場所に店を構えている。
人で賑わう商店街から路地を抜けて、居酒屋が連なる細くて薄暗い飲んべ横丁の途中に、
居酒屋の看板に紛れるように、『立花アンティーク』の案内板が立っている。
それも古くて錆ているため、文字が薄くて注視していなければ気づかないだろう。
看板を見つけたとしても、店にたどり着くには一筋縄ではいかない。
看板の横に伸びた細い路地を抜けて右へ左へ縫うように歩いた先に、ようやく小さな洋風造りの『立花アンティーク』という店が姿を現す。
窓ガラスには薄い白いカーテンがいつも閉まっていて、閉店しているのかと思いきや、実は毎日かかさず営業はしている。
そこを営むのは、立花慎之介と寿乃(ヒサノ)という老夫婦。
店内には二人が若い頃から海外で買い付けたアンティークの家具や小物が飾られ、価格も大層立派だった。
棚に飾られたガラスの置物に照明の灯りが反射し、店の中は外からのイメージと違いキラキラと輝いている。
ガラスケースの中にも、高価な腕時計やアクセサリーが飾られている。
ここに訪れるのは、ほとんどが常連客だけだ。
誰も来ない日もざらにある。
けれど、店主は毎日カウンターの椅子に座り新聞を読みながら、訪れる客を待っている。
古い振り子時計の音と、時々奏でるオルゴールを聞きながら。
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