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その間、わりと冷静にキツネの子を見ていた朋也は彰光と顔を見合わせた。
「あの子、まったく危なげなく立ち上がったように見えたんだけど」
子供が木に登っているのを見つけた時は驚いたし心配もしたが、全然平気そうだ。
「ちっこくても化けキツネなんだったら、むしろ俺らより身軽だろ」
と、彰光も同意する。
「そっか。なら、晴太はなんで焦って飛び出してったんだろうね?」
晴太の皿に残ってたドーナツを口に放り込んだ彰光が肩をすくめた。
「タヌキだもん、あいつ」
「なるほど、タヌキだからか」
ガラッ、バシーン!
裸足で玄関から走り出てきた晴太が、キツネの子が待ってる木に飛びつく。
「おーい、大丈夫かあ? ちゃんとつかまってろよー。ってこら、足ぶらぶらさせたら危ないの!」
晴太がわあわあ騒ぎながら登っていくのを、キツネの子が少し困ったような、でも嬉しそうな表情で見下ろしている。
晴太の心配でたまらないという気持ちを汲んで、ああして大人しく待っているのだろう。
「愛すべきタヌキに春が来たってところかな」
ほほ笑んで窓枠に腕をかけた朋也とは対照的に、彰光は「春の花はすぐ散るぜ」と素っ気ない。
朋也はくすっと笑って振り返った。
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