白兎の章

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獣だから夜目はきくけど、ひとりぼっちの時に真っ暗なのが怖くて、白兎は周囲をほとんど見ずに里の西はずれまで懸命に駆けた。 (ママ、もうおウチ? ぼくだけ置いてったの?) 『はなよめぎょうれつ』に飽きた白兎がひとりで遊んでる間に帰ってしまったのかもしれない。 里の西にある小高い丘の麓には小川が流れていて、白兎たちの家はその川のほとりにある。 粗末な小屋のような家が何軒か密集して建っていて、中でも一番壁がボロボロの家がそうだ。 「ママ! トーリ!」 白兎は家のドアが少し開いてるのを見て、目を輝かせた。ふたりともうっかり白兎のことを忘れて先に帰っていたのだ。 喜び勇んで家の中に飛びこんだ白兎は、ドアを入ってすぐのところで何かを踏んで前肢(まえあし)を滑らせた。 キュイッ! ギャンッ! すっ転んだ勢いで家の真ん中まで床を滑った白兎は、背中から別の何かにぶつかって止まる。 (? ギャン?) ころんと転がって身を起こしたら、目の前にタヌキの子がいた。 「???」 ビックリして飛びすさったけど、子タヌキも同じくらいビックリしたらしく、目をまんまるにして固まっている。 「だ、だあれ?」 ビクつきながらキュワンと鳴いたら、子タヌキの口元がもぐもぐ動いた。よく見たら、ほっぺたがパンパンで、床板のあちこちに食べ物や器がわりの葉っぱが置かれている。     
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