白兎の章

3/37
前へ
/513ページ
次へ
白兎は餅の葉で前肢を滑らせたらしい。 心細くて家の中をぐるっと見回したけど、ママもトーリもいない。この子タヌキだけだ。 キュワワン、と子タヌキが鳴いた。でも何と言ったのか分からなくて、白兎もキュン(なあに?)と鳴く。 見つめ合うことしばし。 子タヌキの前肢がそろりと動いて、魚の焼き物が乗った葉をつつーっと手前に引き寄せる。 白兎はそれをじっと見つめた。まるっと1匹焼いてあって、頭からしっぽまで姿がいい。こんな立派なのは、ウチにあった食べ物じゃない。きっと昼間のうちに大広場でこしらえたお祝い用のごちそうだ。ママとトーリも長いこと準備を手伝っていた。 (おサカナ・・・・) 獲れたても好きだし、塩を振って香ばしく焼いたのも大好きだ。 食べたくて口の中に唾が溜まったけど、見知らぬ子タヌキに近寄るのが怖くて、白兎は壁際まで下がってからそっと座る。でも目は子タヌキがかぶりついてる焼き魚に釘付けだ。 キュウン・・・。 白兎のウチなのに、白兎は緊張と怯えで小さくなってて、よそから来た子タヌキは夢中で魚をほおばっている。 (ママぁ) 鼻の奥がつーんとして、白兎はぐすぐす泣き出した。 (ぼくも食べたいよぅ。おなかすいたの、ママぁ)     
/513ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1017人が本棚に入れています
本棚に追加