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タヌキに化けても晴太の場合は小さくなるだけで、戦うどころかすぐにのされて終わりだ。しかも、ほんとに腹を裂かれそうで怖い。
(どうしよう、ウル兄ーぃ)
ワシワシワシッ!
「ひっ?!」
心の中でオオカミの次兄に助けを求めていた晴太は、大嫌いな吠え声を耳にして飛び上がった。目の前の危機より、生理的に受け付けない犬の吠え声の方が晴太を追い詰める。
『またあのうるさいのか』と、身構えた大キツネが低く唸る。
キツネの子が腕の中でもがいた。
「ん・・・っ」
ぎゅうぎゅうに締め上げていたらしい。
「あっ、ご、ごめん。だけど俺、わわわ悪いけど俺っ」
ワシワシワシッ!
「うっぎゃあああああ?!」
斜面の上と茂みばかり注視していた晴太は、毛むくじゃらの天敵が真横の木の脇から飛び出してくるのを見てひっくり返った。
這いつくばって逃げようとしたところにキツネの子が転がっていて、ひしっとしがみつく。もう何がなんだか分からず、着物に頭を押しつけて「隠して、隠れてっ」と叫んだ。
ワシワシワシッ!
『どけ! 噛み殺すぞ』
吠え声と怒声が頭上を行き交う。
尻を何かに踏みつけられて、(あ、俺死んだ)と思った瞬間、魂が飛んでった。
ボフーーーン。
白い靄が勢いよく渦を巻く。
「わ・・・、あ、タヌキ?」
べしょっと草むらに落ちたタヌキをキツネの子が拾い上げる。
ウォオオオオン・・・!
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