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『久瀬あやかし診療所』
※獣型、鳥型、診ます。
そこは晴太の家の敷地内にある診療所で、看板の通り、主に妖を診る。スタッフは医師がひとりだけで、看護士もアルバイトもいない。
だけど、こじんまりしてても病院は病院だ。
超不機嫌顔の医者がいて、痛い注射と沁みる塗り薬がある。
キャウンッ!
(俺はいいっ、診察いらないっ)
「あ、わ・・・落としちゃう」
キツネの子の腕の中で肢をバタつかせて暴れるタヌキを、ヒョイと大きな手が抱き上げた。
「こら、じっとしないか。頭に怪我をしてるんだろう?」
落ち着いた声で叱られて、晴太はビクつきながらその医師を見上げる。
目鼻立ちの整った30歳手前の青年で、ごく普通の人間だ。妖ではない。
久瀬雪夜。
どうしてだか、妖の家に人間として生まれてきた、兄。
(ユキ兄・・・・すこぶる不機嫌そう!)
キャワーン(イヤだーっ)、と逃げ出そうとするタヌキをがっちりホールドした雪夜は、緊張した様子のキツネの子を見下ろして、眉をひそめた。
「顔色が良くないな。君も診察するから、そこのソファに座っていなさい。横になってても構わない」
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