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白兎の章
ー 化けキツネの里(プロローグ 幼少編) ー
「ママ? トーリ・・・?」
子ギツネの白兎は目に涙をためて、キョロキョロと辺りを見回した。
ママとお兄のトーリと一緒に『はなよめぎょうれつ』を見に来ていたのに、ふたりがいない。ママの腕から抜け出して木箱を渡って遊んでいるうちにはぐれてしまった。
(ママー・・・ぁ)
高く鳴いても、子ギツネの細い鳴き声はざわめきや楽器の音に紛れてしまう。
白兎はまだ小さな子ギツネなせいで、人の姿をした大人達のそばには近寄れない。足元をちょろちょろすると踏まれてしまうからだ。
(ママ、トーリぃ)
提灯がずらりと並んで明るい里の大通りは、『はなよめぎょうれつ』が通った後ろを、里人たちがぞろぞろと移動していく。
しばらく見守ったけど、ママもトーリも見つからなかった。
(ママ、いない・・・トーリも)
ひとりぼっちだ。
白兎は木箱から飛び降りて、何度も振り返りながら細い通りに駆け込む。
提灯の光が届かない小道は真っ暗だった。
今夜は三日月も星も煙のような薄雲に覆われていて、行く手を照らしてくれる明かりがない。
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