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本編4 涙ぽろぽろ
晴太が学校に行ったあとは、オオカミのひとも見当たらないから、雪夜とふたりきりだ。
白兎は泊めてもらってる部屋のベッドの下に隠れて、雪夜の脚とガーガーと大きな音をたてる掃除機を目で追っていた。
ビックリすることに、人間の町では洗濯も掃除も雪夜曰く『デンキの機械』が手伝ってくれるらしい。
(お隣のおばちゃんもお母さんも、ニンゲンは野蛮で怖いって言ってたけど・・・)
キツネに限らず妖の子供は、大人や年寄り達からニンゲンは恐ろしいと教わって育つ。隠された里から出てはいけないよ、ニンゲンに見つかったら殺されてしまうよ、と言うのだ。
でも少なくとも、倒れた白兎を看病してくれた雪夜はニンゲンだけど野蛮じゃない。
ぶたないし、食べ物と着替えをくれるし、今日は朝から土汚れがどうのと言いながら部屋の掃除までやってる。
ガーーー。
(でもこの音はイヤー)
キツネ耳をパタッと伏せても頭に振動が響いてくる。
ガガーッ、と掃除機の吸い込み口がベッドの下に入ってきて、白兎はあわあわと這い出した。
しっぽを吸われたら千切れちゃう!
ベッドの上に飛び乗った白兎を、白衣の腕が後ろからひょいと抱えあげる。
「こら。シーツをはいだベッドに乗るんじゃない」
(わ、わ、吸われちゃう)
「フーッ」
雪夜の顔にしがみつきながら威嚇したら、ガーガー音が止まった。
「掃除機が怖いなら隣の部屋に行ってなさい。向こうで朝飯にしよう」
ストンと床におろされる。
おもむろに掃除機の先端を向けられた白兎は部屋から逃げ出した。
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