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玄関の前に立ち、外れかけたドアを持ち上げて脇に退ける。蝶番は錆びるどころか既に無くなっており、そもそもドア自体が三分の一程何処かへ飛んでいってしまっていて、外から中を覗けてしまえるくらいだった。ドアが倒れてこないことを確認してから、私は廃館へ足を踏み入れた。
中に入るとちょっとしたホールに出た。壊れた机や椅子が散乱していたが、廃墟なのだから当然だと思った。何気無く上を見ると穴が開いていて、そこから黒雲が覗いていた。どうやら天井が落ちてきた様で、前に目線を戻すとその際のものと思われる瓦礫が積もっていた。前はこんなことはなかったので、最後来てから数週間の内に落ちてきたということになる。下に居なくて良かった、と私は心底安堵した。
ホールがら続くのは何本かある廊下への道、瓦礫の向こうに見える二階へ続く階段、そしてその下にある地下への扉だった。瓦礫を迂回して、地下室の扉を開ける。
先には廊下が続いていて、その先にまた一つドアがあった。ただ、先の階段下のドアが木製だったのに対して、今回は金属製だった。錆もあまり見受けられず、そういったものに強い合金製だと推測出来た。
前回来た時は鍵が掛かっていたが、万が一の為に高熱式熔断機を持ってきていたのは正に行幸だった。その際開けた穴が今も残っている。ドアノブがもう無いので、両手で力一杯に押して開ける。ギイィィィィィィ、と大きな唸りをあげながらドアが開いていく。鍵をこじ開けるよりただドアを開ける方が大変だなんて笑える話だ。
ドアの向こうにはエレベーターホールがあった。3つエレベーターがあったが、何か配線関係にトラブルがあったのか、前来た時からどれも動いていなかった。
エレベーターの前にはペンキの剥がれた案内板があった。絵には、階段を上っている人の下に矢印が記されているというものだった。 矢印に従ってホールの脇道に逸れると、案の定そこには非常階段があった。
私はよくElizabethと音楽を聞く。単なる過去の遺物と分かっているのに、いざ聞くとどうもノスタルジックな気分になってしまう。そんな中でもお気に入りな曲は頭に残るものだ。それを頭の中で流して、そのリズムに靴音を合わせながら階段を駆け降りた。百段程下ると、自分のライトとは違う光が下方から零れていた。お目当ての物資まで後もう少しだった。
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