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 きっかけはなんだったか。覚えている人間は、もう生きていないだろう。 いつ、何が起きたのか、正確には分からない。ただ一つ言えるのは、世界中を巻き込んだ核戦争が起きたということ。当時地球の人口は百億を越えていたが、全てが終わったその時にはどれだけ残っていたのか。 権力者たちが戻ることは無かった。自分たちで争い始めた癖して皆が皆自滅した。今の私の様にまだ地下に籠っているのかもしれないが、もしそうなら地上に引っ張り出してこの空を見せてやりたい。今でも世界中がこうだとは限らないが、ここに至っては黒い雲で光が遮られ、昼なのに薄暗い。黒雲からもたらされる黒い雨のせいで草木は育たず、風が吹く以外の音も無く、寂れたビルや建物が建ち並ぶ。今更戻ってきたところで、こんな世界の何を支配出来ようか。 核戦争の前と後は大きく違う。先に言った環境は勿論のこと、人間についても同じことが言えた。 栄華を極めた人類は、あの日を境に数を大きく減らした。私は生まれてこの方家の外で人間を見たことが無い。少なくとも、半径数キロのテリトリー内には人間は居ない。もし会って敵対的でなければ、積極的にコミュニケーションをとるつもりでいる。 取り合いをする必要が無いので物資には困らなかった。周りには建物の残骸が多く残っていた。夜は黒雲の存在も合間って充電式ライト無しでは何も見えない。だがそれが好都合な理由があるので、夜を見計らい建物へ忍び込んだ。外観と同じく中もボロボロだったが、地下のものは多くが無事だった。皮肉なものだが、我が家にもある核ジェネレータ搭載の発電機が生きていて、倉庫や冷凍庫も稼働したままだったのだ。食物に関しては、廃棄期限日を見ても今がいつか分からないから気にしていない。今のおおよその時間しか私には分からない。 それに、これらは私自身の為のものではない。私と居を共にする、Elizabethの為のものである。彼女についてはまた後で説明したいと思う。 先にも言ったが、多少視界の利く昼ではなく、こうして夜な夜な地上に出るのには訳がある。 この辺りに"人間"は確かに居ない。その代わりに異形たちのるつぼとなってしまっていた。ここら一帯のみならず、世界中に蔓延っているヤツらのことを、私はcreatureと呼称する。
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