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「私が死んだら、死体を葬らずに一番の生体保存用ロッカーに入れて。そしてこのカードを持って、行って欲しい場所があるの」
「...何処です?」
「ここから北へ暫く進むと大きな川があります。それを渡って街を過ぎ、郊外まで行くと森があります。"shallond"という森です、看板が目印になるでしょう。そこで立ち入り禁止の柵を破って中へ入りなさい、もう壊れているかもしれませんが」
「.....そんな所へ行かせて、貴方は私に何をさせようと言うのですか」
「良いから。ただ聞きなさい」
会話の時間を伸ばしたくて、私は無意識に口を挟んでしまっていた。それを知ってか知らずか彼女はぴしゃりと会話のペースを自らのものに戻そうとするが、その口調からは焦りが感じ取れた。Elizabethの言うことはやはり真実なのかもしれない、そう諦観し始める自分が居た。
「その柵を越えた先には大きな鉄扉があります。とんでもない厚さなので力づくでは開けられません。そこでこれを使うのです。扉の脇にボタンがあります。それを押してキーを差し込んで中へ入りなさい。...装置の心配は要りません、丈夫に作ってありますから。その奥に目的のものがあります。それをここまで持ってきて欲しいの」
「それは何なのですか」
私がそう聞くと、彼女はばつが悪そうに眼を逸らし、「とても、大切なものです」と曖昧に答えた。彼女がお茶を濁すのも、珍しい話だった。
「ここへ持ってきて、それからどうするのです」
「貴方がそれをここへ持ってきたその時、私の願いは果たされるのです」
彼女は確固たる口調で言った。これ以上聞いても何も語ってはくれなさそうなので、詮索は止めにした。
「...分かりました。ではキーを」
「...ありがとうGregory」
そう言って微笑んだ彼女の表情は正にホッとした感じで、そんな顔を見て私はまた悲しくなった。キーを受け取ったからといって、彼女の死の運命を受け入れた訳では決して無いということを伝えたかった。
「では、行ってきます。私が居ない間に、というのは無しですからね」
「いってらっしゃいGregory。貴方の帰りを待っているわ、いつまでも」
今度こそ踵を返して、私は居間を出た。
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