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ハッチから出た時、肌寒い風が服の隙間に入り込む。コート下の服をしっかりとズボンの中に入れ込んで、穴の縁にあるでっぱりに足を掛けて完全に地上に出る。ハッチの蓋を閉めてから外付けレバーを下ろし、こちら側からもロックする。ちゃんと鍵が掛かったかをレバーを押したり引いたりして確かめ、私は遂に荒廃した街へと歩きだした。
歩きながら、リュックサックのハーネスベルトにあるスイッチをオンにした。すると胸のライトとヘッドライトが点灯し始め、これまで黒一色だった辺りが明るく照らされた。
我が家は町外れの丘の上に位置している。ライトの光を頼りに、砂利石や泥に足をとられないよう気を付けながら早足で坂を下る。
坂を下った先にはコンクリート舗装の道路が引かれていた。所々がひび割れ、欠けて無くなっていた。かろうじて道としての役割を果たすその道に立つ。吹き荒ぶ砂混じりの風が顔に当たるので、よりフードを深く被り、襟を立て、黙々と街へ向けて歩いた。
十分程歩いた。道の端に看板が見えてきた。それにはどうやら先の街の案内が書いてあるらしかった。"らしかった"と言ったのは、看板に何かが書いてあったということは分かるものの、その内容自体は錆などで読めなかった為だ。文字は掠れ、手を広げた五人の男女の絵は何れも赤茶色の涙と涎を流している。正直見ていて怖い。
看板の内容はともかく、私の中でこれは街が近いことの目印になっていた。もう直ぐで着くと思うと、より一層緊張が高まった。道中は何も無かったが、街には風雨を凌げる建物がある。creatureたちの巣になった建物に突入してしまうことが無いよう、細心の注意を払って探索せねばならなかった。前大丈夫だったからといって今回もそうとは限らない。
ちらほらと家々が見えてきた。私はリュックを背負い直し、また歩きだした。
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