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「試しに付き合ってみれば?」
「面白がってない?他人事だと思って」
「そりゃ、面白いよ。でも小春は構えすぎ」
「そうかな」
「付き合ってみて、ダメだったら別れれば良いんだから」
「でも・・・私、もう傷つきたくないんだよ。柚葉と静かに暮らせればそれで良いの」
返事をとりあえず保留にしたのは、冬馬に好意があったからだ。
しかし色々考えると、どうしても一歩踏み出せなかった。
だからみちるに相談した。それをよく分かってるみちるは、上手に背中を押してくれる。
「それで小春は後悔しないの?」
「え?」
「・・・冬馬さんのこと、好きなんじゃないの、本当は。良いなと思ってる相手に告白されることなんて、これから先、もう無いかもしれないよ」
「でも・・・私には冬馬さんと付き合う資格なんてないよ」
「資格が無いなんて言って逃げてるだけでしょ?」
「それは・・・」
「今回の恋はさ、誰も傷付けない恋だよ?落ちても大丈夫なんじゃない?冬馬さん良い人だし、私はオススメだな」
誰も傷付けない恋。落ちても良い恋。
小春はシングルマザーの自分に、まさかそんな物が降ってくるなんて思っても見なかった。
そして少し怖いという気持ちもあったが、落ちても良い恋に落ちてみることにしたのだった。
「小春、俺と結婚して下さい」
そんな落ちても良い恋に落ちてから1年。
今度は冬馬にプロポーズされるなんて、想像もしてなかった。
自分が結婚する日なんて、永遠に来ないと思っていた。
「知ってるでしょ?私の過去」
「うん、知ってるよ」
「だったら・・・分かるでしょ、私がどんな女か。結婚とかそんなの、する資格ない」
「・・・人は間違ったことしちゃいけないの?」
「え?」
「誰だって間違う時も、いけないことをしてしまう時もあるよ。俺だってそうだよ?でも1回間違えたからって、幸せになっちゃいけないってことは無いんじゃないかな」
小春の瞳を真剣に見つめながら、冬馬は続ける。
「確かに小春のしたことは許されることじゃない。もう二度としてはいけないことだ。小春はそれを充分わかってて、反省も後悔もしてきた。もう沢山苦しんだだろ?もういいよ、苦しまなくて」
そこまで言われると、小春の瞳は涙で潤んでいた。冬馬が言ってくれた言葉は、小春が誰かに言って欲しかった言葉そのものだった。
許されないのは分かってた。
これからも罪を背負っていこうと思ってる。
その反面、穏やかな幸せに憧れがあった。
でも自分はその幸せを手に入れる資格はないと思っていた。
だからこそ、柚希の恋を心から応援したのだ。せめて柚希には、穏やかな幸せを手に入れて欲しかった。
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