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夜道を引きずるような足取りで歩きながら、
私は由奈に連絡した。
就寝時間が遅いことを知っていた私はこんな時間にも関わらず、
メールではなく電話にした。
「もしもし?」
5回目のコールで出た由奈はいつもと変わらない声色だった。
それが由奈の優しさだった。
こんな時間の電話だ。
何かあったのだとすぐに察しがつくだろう。
なのに何かを感じながらどうしたのかと聞いてこようとしない。
「……明日、暇じゃないよね?」
ダメもとで聞く私に受話器の向こうで小さな息が漏れる。
「暇じないけど、時間つくるよ。ちょうど私も話があったし。午後からしか出れないけどいい? 泊まるよ?」
「うん。待ってる」
「了解。今……外なの?」
静かな夜。
由奈に聞こえるとすれば雪を含んだこの冷たい風音くらいだ。
「うん」
「早く帰って寝なよ。明日、話聞くから、今日はちゃんと寝ときなさいよ。じゃあね」
「うん。おやすみ」
この時既に、私の伝えたいことの半分くらいは由奈にはわかっていたのかもしれない。
それでも由奈はそこには触れずに明日を待ってくれた。
何かを急いでいた私とは大違いだった。
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