受験前戦争

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 本当にそんな物語が書けるのであれば、絶対に見てみたいと思ったが、俺達はこれから滑り止めの滑り止めである、五流高校を受験しに行く所なのだ。  巷では、名前さえ書ければ受かるとまで言われているその高校は、もはや俺達にとって最後の砦なのである。  どうしてもここだけは落ちる事が許されない、人としての限界領域を試される受験でもあるのだ。 「洋介。自分の名前書く練習してきたか?」 「してきた。何回もしてきた」 「よっしゃ! 今日は他の問題なんか気にしなくて良いから、とにかく自分の名前だけは書くんだぞ!」 「わ……分かった」 「そういえば洋介。お前、自分の名字言うの嫌がってたけど、何て名字なんだ?」 「淀川(よどがわ) 佐衛門丞(さえもんのじょう) 菊之介(きくのすけ) 五郎丸(ごろうまる) 時宗(ときむね)……洋介って言うんだ」 「ながっ!!!」  っていうか、ヤバい!!  まさか、洋介の名字がそんなに複雑だったとは!! 「一応、書いて書いて書きまくったけど、10回中1回くらいしか成功した事がないんだ」 「そんな……」  絶望的だ……洋介にとってはH難度くらいの成功率だ…… 「名字は全て書けるんだが、洋介の洋の字が、横線が二本だったか三本だったか、いつも分からなくなってしまうんだ」     
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