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 人通りの多い渋谷には向かわず、井の頭線に直角の方向に坂を下りて行く。パラダイスという名のカフェがあったので、そこに席をとり、エスプレッソをダブルでオーダーして、まだ客の少ない店内を見回した。結衣花は、ここで落ち着いて自分の記憶を辿ろうとしていた。  亮介と別れたのが1か月前。二人で旅行したグアムで大喧嘩をし、帰国便では口をきかないままだった。こんなに腹立たしくて長く感じる3時間というのは、経験したことがない。結局、彼とはそのまま別れた。  一週間後に恵比寿のスペインバルで、親友の、いや昨日まで親友だった佳須美に別れを打ち明けたら、「人生、いろいろあるよ。大丈夫だよ。結衣花なら、また素敵な彼が訪れるよ。」と励ましてくれた。今更だけど、「また素敵な彼」ということは、「亮介が素敵だ」と言っていたわけだ。あの女、亮介を隙あらばと狙ってたんだな。励ます振りして、後ろを向いて舌出してたんだわ。  昨日の午後、かねまつの本店で靴を見た後で外に出て、四丁目の交差点方面に向かおうとした時、結衣花はそこで固まってしまった。銀座シックスの前辺りを亮介と佳須美が楽しそうに腕を組んで歩いているのが見えたから。夜で車の通りがあれば気付かなかったかもしれないが、午後3時頃でしかも歩行者天国だった。呆然とその場に立ち尽くして、頭の中では「どうして」という言葉が疑問符と一緒に渦巻いていた。  有り得ないその二人の組み合わせ。こんなこと、歌かドラマの中だけだと思っていた。俄かに信じられない。恋人や親友って、直ぐにとっかえひっかえできるものか?  そこまで思い出して、結衣花は目の前の大きなカップを覗き込む。すっかり冷めてしまったが、コーヒーはまだ半分は残っていた。
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