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 銀座通りを仲睦まじく歩く亮介と佳須美。そのシーンに衝撃を受けたことは確かだった。その場で固まってしまったのも確かだった。でも。  でも、不思議なことに心に深い傷は残らなかったような気がする。翌朝のカフェで結衣花は、固まった後で、どういう行動を取ったのか思い出そうとしていた。  うずくまったり、走り出したり、泣いたり、叫んだりしなかったはずだ。なんか吹っ切れたような、「それならそれでいいや。」というような、そんな感じだったんじゃないかなぁ。そうそう、「もうこれで、二人と会うことも話すこともない。」と思うと、清々した気分だったような。  亮介とつきあって1年。この夏のグアムで、もしかしたらプロポーズされるんじゃないかと結衣花は期待していた。一泊旅行しか経験のない二人には、五日間と短いけれど一緒に生活することに期待と不安を持っていた。機上からホテルにチェックインするまでは、ルンルン気分でイチャついていた。だが。  だが、その後に大きな落とし穴が待っていた。  亮介は、自分が良いと思うことを相手にしてあげようとする傾向がある。良い言い方をすればサービス精神が旺盛ということになるが、相手が望んでいるいないにかかわらず、そのお節介を押し付けてくるのは厄介だ。  初日の夜に、マジックショーを予約しようとするので、結衣花が「着いたばかりで疲れてるから、明日にしない。」とやんわり断ると、「じゃあ、鉄板焼きに行こう。」と誘ってくる。「だから、疲れているって言ってるじゃない。」とつい大きな声を出したら、シュンとなって、ブツブツ小声で文句を垂れていた。  そうやって、今日の午前はどこどこで、午後は別のところで、夜はなになにのレストランって、全部イベントを入れないと気が済まないらしい。  「リゾートに来てるんだから、ちょっとのんびりしない。」と結衣花が提案すると、「リゾートだから、満喫しなきゃもったいないだろ。」と亮介は返してくる。考え方が全く逆だった。  プールで身体が冷えたので、デッキチェアに寝転んで、隣接するバーで温かいカフェオレを買ってきて貰おうと亮介にお願いすると、小さな傘の刺さったトロピカルカクテルを持って現れて、「やっぱ南国はトロピカルでしょ。」とニッコリ笑って言う。結衣花は、だんだんその独断専行のサービス精神に苛立ちを隠せなくなっていた。  
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