11人が本棚に入れています
本棚に追加
3日目になって、結衣花は、勝手にウォーターパークに出かけようとする亮介に向かって、「あなたがしたいアクティビティは、私がしたいのといつも一致するわけじゃないのよ。」と一言釘を刺した。
「行かないの?」
「行かない。」
「何するの?」
「何にもしない。あなたのやってることは、まるでパック旅行だよ。」
亮介は、一息置いて、意を決したように一気にまくしたてる。
「じゃあ、言うけど、君は、どうしてお札を崩さずに小銭を駆使してモノを買うの?」
「なにそれ?そういう習慣があるのよ。」
「で、チップ払う時になったら、いつも『払っといて』って俺に出させる。」
「いいじゃないの。小銭くらい出してくれたって。」
「手間かけて日本で細かく両替しておいたのは、俺だぞ。お前、大きいお札ばかり手元に残してどうするつもりなんだ?」
「あ、お前って言った。」
二人の間の険悪なムードは、この旅で、いやこれまでで最悪になっていた。言いたいことを言ってしまったら、後は冷え切った気持ちだけがお互い残った。
この時のことを結衣花は、カフェのソファでチビチビとエスプレッソを啜りながら想い出していた。
亮介は、「俺が君が喜ぶと思って企画しているのに」とか「俺が日本で手間をかけて準備しておいたのに」とか、いちいち恩着せがましい。あいつは、「僕っていい子でしょ。」というのを親や先生、友達にアピールしながら育ったのかもしれない。「良い子ね。こんなにいろいろ考えて用意してくれたの。」って言って欲しいに違いない。優等生シンドロームって名付けてあげてもいいくらい。もっと相手に対して思いやりのある人を私は望んでいた。あんな男とずっとやっていけるわけがない。別れて良かったのだと思う。プロポーズ受ける前にわかってよかった、とそこまで結衣花は思い至った。
最初のコメントを投稿しよう!