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――ヒュッと息が詰まりそうになった。
呼吸はしているはずなのに、心臓や肺まで酸素が行き届いていないようで苦しく感じる。
平静を装うとすると何故か頭は思うように働かなくて、どうしても焦る。
「な……んで、そう思うんだい?」
精一杯捻り出した言葉の選択に誤りがないか考える余裕すらなかった。
「それよりさ、お兄さん」
「え?」
少女は駆け足で駐輪場まで行くと、適当に選んだシルバーの自転車を自分の物のように扱い、また戻ってきた。
「鬼ごっこ、しませんか?」
「目の前で窃盗した人に言われても……」
「どーせお兄さんも窃盗でしょ? お兄さんが鬼だから! 早く私を捕まえてね!」
一方的に喋り、返事すら聞かないで少女は自転車を漕ぎ始めた。
「何で自転車で鬼ごっこしなきゃいけないんだ……」
訳が分からないまま、自転車を漕ぎ始めた。ライトを付けているからか、やけにペダルがずっしりと重たかった。
――しまった、もっと自転車を見極めて選べば良かった。
そのまま少女を追いかけて懸命に走っているが、全く追い付くことが出来ない。
少女は教科書やノートの入った具沢山のリュックを背負っているにも関わらず、自転車を漕ぐスピードは速い。
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