2人が本棚に入れています
本棚に追加
3.「死」は必ず迷惑をかける。
さも当たり前のように喋る少女は本当に中学生なのか?
それすらも疑わしく思えてきた。
少女の言葉を、少女の身内に今ここで聞かせたら何と言うだろうか。
もし僕が同じように家族の目の前で、こんなことを言ったら何と言われるだろうか。
「変人だ」とか「気持ち悪い」と言われるだろうか。病院の精神科に強制入院させられるだろうか。
だが僕は少女が間違えているとは思わない。
寧ろそのような考えが浮かび上がるなんて凄いと思う程だ。
「……つまりそれは、安楽死したいってこと?」
「んー、最終的に死ぬ手段が無かったら。でも」
「でも?」
「私が生きている内に綺麗に死ねる装置ができたら、私は迷わず使用すると思う」
真っ直ぐ前を見つめる少女は、未来へ向かって将来を想像し歩んでいく子供に見える。
だが心の中を一度覗くと、中身は人生を放棄し、「死」への想像へと膨らんでいるのが分かる。
「そうだねぇ。装置があれば僕も使用するのかな」
「でも安楽死を導入しない限り、そんな装置の使用だって禁止される。そうなると、私はまだ生き続けなきゃいけない」
結局その装置が発明されない限り、死んだら誰かに迷惑をかけちゃうんだよね、と感慨深く少女は言った。
「……ところで、もう夜の8時過ぎだけど、大丈夫?」
「うわぁ、ママに怒られちゃうから帰らなきゃ」
先ほどまで人生を悟ったように語っていた少女から「ママ」という言葉が出てきて一安心した。
ちゃんと可愛らしい中学生の一面が見えて、内心ホッとしている。
「こんなにスッキリしたの初めて。お兄さんとまた話せたらいいなぁ。それじゃあ、バイバーイ!」
最後は可愛らしく手を振り、全速力で自転車を漕いで消えた。
この後僕が、"自殺することを考慮して"、あえて何も言及しなかった少女に感謝する。
僕は再び月が反射した水面を覗いてみたが、諦めて盗んだ自転車を返すために、カラカラと重い自転車を引きずって歩き始めた。
川のせせらぎは穏やかに、背中を押すように静寂に流れていた。
最初のコメントを投稿しよう!