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恋美は手を振って霧を払いのけながら、目をこらしてその人を見ていた。
「うん? だから誰ですか? 」
「もう1度聞く。我は石川幻慈。末代までの恨み晴らしたく思う。さぁ~答えよ。そなたの名前は? どこの一門だ? どこの血筋の人間だ? 」
「石川幻慈・・・あ~石川幻慈さん!・・・うそぉ! 」
恋美はその名前を聞いて少し考えていると、右手の光るものが刃物である事が確認できた。しかもそこで、その名前を思い出した。
「うそぉ! 殺される! 」
恋美が驚いていて、なんとか逃げようと立ち上がると、石川幻慈さんは少し怒りの声で叫んで、光る刃物が恋美に向けれた。
「早く申せ! それとも分からないのか! 」
その石川幻慈さんの声で強い風がビューと吹き霧が少し抜けると、右足が膝から下がないのが見えた。そして光る刃物は刀であるのも確認できた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
恋美はその場に土下座して謝りだした。石川幻慈さんが殺しに来たと思ったからだ。風はやみ、また霧が立ち込めた。
「謝れとは言っていない。申せ、そなたの名前は? どこ血筋の人間だ? 」
「え・・・えっと・・・たけ・・・武田・・・」
恋美はビビッてうまく話せない。
「はっきり申せ! 」
ビュー!
またも強い風が吹き抜けた。恋美は土下座している向こうで、杖の
トン・・・トン・・・
という音が聞こえた。近づいて来ている。ヤバい、答えないと殺される。
「はい! 私は武田恋美です。えっと血筋?・・・先祖様かな・・・えっと、武田信玄です! 」
「武田・・・シンゲン・・・? ・・・・誰だそれは? 」
トン・・・トン・・・
と、杖をついて近づいてくる。
「えっ! えっとのその山梨県の・・・えっと山梨とは・・・昔は甲斐です甲斐! そこの武将で・・・」
「ブショウ?・・・甲斐・・・甲斐の武田・・・・甲斐の武田か? 」
恋美はそう聞かれてもよく分からなかった。
「えっ?・・・」
「そうかと聞いている! 」
トン・・・トン・・・
と杖をついて近づいてくる。
「はいそうです! 甲斐の武田です! 」
恋美がそう答えると、トントンと杖の音はやんだ。
「そうか。そなたは現世を生きられよ」
「えっ? 」
よく分からなかったが、石川幻慈さんは霧の向こうで背中を向けて離れて行った。
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