ペンの魔法は

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 私は言う。  せっかくここまで来てくださってとても言いにくいのですが。私は手紙を書いた日に魔法のペンを折りました。ここにあるのがそのペンです。私に翼はありません。二度と話も書けません。明日私は縁談です。とある商家のご子息に嫁入りすると決めました。私があなたにできるのは、魔法のペンを渡すことだけ。  タスラザンがいつかまたあなたの街を訪れたなら、ペンを直す方法を聞いてみるといいでしょう。彼は魔法使いだから、たちまちペンを直します。彼に再びペンをたくして、だれか物書きを探してください。そしたらきっと魔法の紙はふたたび話を吐くでしょう。  私は一番上等のベールに魔法のペンを包んで、その青年に差し出した。  彼は黙ってそれを見つめ受けとろうとはしなかった。そして代わりにこう言った。  私は明日あなたのことをきっと迎えに来ますから。ペンは戸棚に仕舞っておいて。私はあなた自身から、あなたの語を聞きたいのです。  あなたの語るホラ話を生涯聞いていたいのです。だから私はここにいる。魔法のペンは受けとれません。  私はついには困り果て、ペンを持つ手をそっと降ろした。  父は青年を怒鳴りつけ、家から彼をつまみ出した。  魔法のペンも魔法の紙も、旅人の紡ぐ言葉ほど、人を幸せにしないのだ。
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