ペンの魔法は

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 私は彼に心酔した。とはいえ彼は決して魅力的な容姿ではなかったし、なにしろ年が離れすぎていた。決して恋にはなりえなかったが、彼の聞かせる異国の物語や、冒険談、不思議な魔法の話に私はみるみる魅せられた。それが全部作り話だとは若い私にもわかったが、彼の口から紡がれる物語が三度の食事より好きになった。  彼の物語に恋をしたと言うのなら、そうなのかもしれない。  だから旅人である彼が街を去ると言った時、私はありもしない片翼がもがれるような心地がしていた。血肉が引き裂かれるような、もう二度と飛べなくなってしまうような、恐ろしい気持ちにさえかられた。二度と彼の物語を聞けないなんてなんと味気ない人生か。それを見透かすような彼の言葉に、年上なだけあると私は思った。  私はその頃十七で、この街ではそれはとうに嫁に行くような年頃だった。来年や、再来年にも結婚していなければ「行き遅れ」というものになるらしい。しかし今すぐに誰かの嫁になり新たな家族を作るなんてこと、雲の上で異国の氷菓子をユニコーンとスキップしながら食べる話よりよほど想像しがたい事だった。そしてそれ以上に私は結婚が恐ろしかった。  少しの葛藤を手に幸せを掴む同じ年頃の娘達のようには、私は他人を受け入れられそうになかった。それはこの街では変わった感覚で、私の心に巣食うものを家族でさえ理解してはくれなかった。  タスラザンは私の恐れを、当たり前さ、と言ってのけた。受け入れられた嬉しさに私はすこし涙ぐみ、彼はなにか眩しそうな顔で、わざわざと真昼の太陽を見上げた。
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