ペンの魔法は

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 翌朝目覚めると、母が頬を紅潮させて私の部屋に飛び込んで来た。  素晴らしい物語だと褒めそやされ、お前が書いたのかと問われる。  はい、と答えた私の顔はうかなかった。初めて書いた手慰みが素晴らしいはずがあるわけない。  彼のようにはなっていないのだ。彼の話とは違うのだ。心の中で呟く。  彼の物語にはずっと遠い。そして彼は遠くへ行ってしまった。急に気が滅入る私に、後からやってきた父も言う。  素晴らしい物語を毎日ひとつずつ、書いているうちは嫁にやるのをよしてやろう。嫁に行きたくないのだろう?  容易いことだと請け合った。いくら書いても書くべき話は砂粒の数ほどあるように思え、私の物語の世界はこれからどんな砂丘より大きく広がる予感があった。  憑かれたように書き続け、七日で八つを書き上げた。どれも彼が語るほど、魅力的には思えなかった。書けば書くほど不思議と彼から遠のく気がして、彼を追うペンはますます気ぜわに動く。  そんな私に母は神が降りたと言い、私の娘は天才と、気難しかった父までも言う。  すべてが気に入らなかった私は想像の中、旅人の背中だけを見てペンを動かす。
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