ペンの魔法は

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 どれだけ書いてももの足りず、沸き起こる想像をぶちまけなければ命が絶える気さえした。限界を超えても走りつづけているように息苦しかった。それなのに書いても書いてもインク壷のインクがなくなることもない。どうしてこんなに心が乾くのか。彼ならこう話すだろうというホラ話だけが増えていく。  旅人が恋しかったか、旅人の物語が恋しかったか。彼の語った物語が走馬灯のように脳裏を走り、いつしか境が融けていく。  会えない人を想い病み、哀しくなれば哀しくなるほど、言葉は泉のように止まらず溢れ出す。その物語が百にも届き、一つの話が千まで届く。  私のこころが枯れかけた頃。父も母も兄弟も、私を才女ともてはやし、気づけば街の人間はみんな私を知っていた。  父が物語を街中で語り読み、私は物書き娘になった。物書き娘の評判は旅人達にも知れ渡り、私は砂の街の新しい名物になった。  そして誰の妻にもならずとも、街で私の世話をしようと、大きな話が持ち上がった。父の約束は破られて、私はその年、街の嫁になりおおせた。
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