ペンの魔法は

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 なるほど魔法のペンの力か。私は物書き、街の嫁。  魔法使いでもいなければそんな出来事起こりはしない。  私は彼に思いを馳せた。いまだに私のホラ吹きは彼のそれほど生き生きと人の心に迫らない。街が私に優しくするほど、私の心はふさいでいった。私は本当はただのホラ吹きで、ただ旅人の面影を追っているだけなのに。  誰もが私を褒めたのは不思議な力のせいなのだ。気づいた私は魔法のペンを置きただのペンに持ち替えた。書いても書いても足りなくて、ただのペンでも書きなぐる。想像はこれまで通り私のペン先のすぐ横を追い抜こうと迫り来る。追われるようにかいた後、変わらぬ評価に打ちのめされた。  物書き娘は素晴らしい。街が声を揃えて歌う。重い重い枷のように期待と焦燥がつみ重なっていった。  彼のようにはなってないのに。彼に近づけはしないのに。私と彼はちがうのだ。どれだけ願おうと、あがこうと、私は彼にはなれないのだ。  心が渇いた砂のように紙の上からこぼれ落ちた。私の翼は旅人の去ったあの日にもがれたままで、それが私のすべてだった。  私は魔法のペンをとり、最後に手紙をしたためた。
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