きみがいた。

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「待ちなよ」  唐突に、声がかかった。はっとして俺が顔を上げると、いつからそこにいたのか一人の少年が立っている。今の自分と同じくらい――多分中学生くらいの少年だ。だが、少年だとわかったのは体型だけで、声はどこか反響していて酷く聞き取りづらいし、顔に至ってはぼんやりと光っているせいでまるて判別できない状態である。  ついにオバケでも出たのか、なんてどこか他人事のように思った。この場所の意味を考えるならなんら不思議なことではないだろう。問題は――その少年らしき存在が俺の目の前に立っていて、完全に通せん坊をしていることだった。階段は狭い。一人がやっと通れる程度の幅しかない。つまり、彼が邪魔をしている限り、自分は前には進めないのである。 「何だ、お前は。いつからそこにいたんだ」 「いつからだっていいじゃないか。ねえ、待ちなよ。どうして君は先に進むんだい?この先に何があるのか、薄々気がついているんだろう?」 「あんたには関係ないだろう」  何で見ず知らずの他人にそんなこと尋ねられなければならないのか。  自分はわかっていて此処に“自ら来た”のに。この罰を、自分は正しく受けなければならないというのに。 「俺は生きているべきじゃない。だから、その先に行かないといけないんだ。もしくは、永遠に此処にいないといけないんだよ」  そう――此処は黄泉路。あるいは、黄泉そのもの。  自分は死んだから此処にいる。  そう望んだから――此処にいる。 「それがわからない。だって君は自殺したんけじゃないじゃないか」  目の前の少年は不思議そうに問う。 「どうして生きているべきじゃないなんて思うんだい。君はまだ、十三歳の子供だろう?」  それこそお前には関係ないだろう。俺は舌打ちする。だが、それを語らなければこいつはきっとどいてはくれない。さすがに、この少年を突き落として無理矢理進むのは気が引けた。そして、この場所から自分が飛び下りるという選択肢もだ。  飛び下りたら、元いた場所にきっと戻ってしまう。なんとなくそんな気がしたのだ。せっかく此処まで苦労して登ってきたのに、それを全部台無しにされるのは流石に御免というものである。
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