きみがいた。

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「なんで時間が惜しいんだい?此処に、時間なんてものはあってないようなものなのに」 「それでもだ。地獄があるなら、早くそこに行くに越したことはない、そうだろう?」 「違うよね。君はまだ心の何処かで迷ってるんだ。その迷いを裁ち切りたくて急いでるんだよ。そうだろう?」 「……!」  どくん、と心臓が跳ねた。思わず黙りこんでしまう。――その時点で、図星を突かれたと言っているようなものなのに。 「お兄さんのために、もう二度とサッカーはしないと決めていたんだよね。だから君は、中学では何処の部活にも入らないつもりだった」  そうだ。ボールを蹴ると兄を思い出すから、自分はサッカーに関するものは全部捨てたのだ。自分は結局大した怪我もなく生き残ってしまって今に至るけれど。兄はもう、サッカーどころか笑うことも泣くことも出来なくなってしまったのである。  自分が、兄から全てを奪ってしまった。そんな自分が兄から奪ったものを楽しむなんて――そんな資格、あるはずもないと思うのは当然のことだろう。 「でも、誘われちゃったんでしょう。サッカー部に入ってほしいって。あと一人メンバーがいないと大会に出られないんだって。困ってるって」 「……本当にうざい奴だ。犬みたいに人の後ろついてきやがって」 「君は優しいものね。だから、断りきれなかったんでしょう」 「違う。あいつがしつこいから仕方なく入ってやっただけだ…!」  長らくサッカーから離れていた自分より、輪をかけて下手くそな集団だった。その自分を強引にサッカー部に引きずり込んだのが、同じクラスの光である。――名前の通り、ひかりみたいな奴だった。いつも元気で明るくて、根倉でひねくれた自分とは大違いの――実に眩しい少年。  サッカーもヘタクソ。勉強も出来ない。でも、何故だか見ていると目が離せない彼。――サッカー部のみんなにも、クラスのみんなにも愛される人気者。それが光という少年だったのである。
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