きみがいた。

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「怖いんだね。自分自身の為に生きるのが。それはずっと、イケナイことだって、傲慢なことだって思ってきたから。でもさ。…それが、どうして駄目なのかな。だってそれは、みんなやってることだよ?みんな、結局は自分自身の為に生きていて、それが当たり前なんだ。君が尊敬したお兄さんも…君が命を捨ててもいいと思った大事な友達も、みんな。自分の為に生きていた。生きている。それは何もおかしなことなんかじゃない。当たり前のことだ。当たり前のことをただ精一杯やってるから…みんな、君にはとても眩しく見える。それだけなんだよ」  ねえ、と少年の声が響く。 「君は、君のために生きていいんだよ。少なくとも、君の大切な人達はそう望んでいるよ」  そんなわけがあるか。俺は首を振って否定した。  そんなはずがない。俺は家族をバラバラにしてしまった元凶で、現在進行形で父さんのお荷物で。兄さんを殺し、ひょっとしたらこれからも誰かを不幸で殺してしまうかもしれない人間だ。それはひょっとしたらあの光かもしれないのだ。みんなに必要とされていて、みんなにとって文字通り灯火のような彼かもしれないのである。  そんなこと、あっていいはずがない。  だから悪いことが起きる前に、自分はちゃんといなくなるべきなのだ。だからこれが最善。光を助けて俺が死ぬのが、何よりも最高の結末であるはずで。 「望まれてるはずないだろ。冷たくて、無口で、愛想の欠片もなくて…誰かを不幸にしてばっかりの俺なんて、一体誰に望まれるっていうんだ…!」 「なら確かめてみればいい」  すっと、彼の手が俺の頭に乗った。俺とさほど変わらない背丈に見えるはずの少年は――まるで幼い子供を慈しむように、俺の頭を撫でる。
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