かわり

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 弊社はビルの高層階にある。  ここから見える夜景は格別だ。おそらく、夜景が美しいレストランにも劣らない。新入社員の女の子は、秋の日が短くなった頃にこの景色に気付いて「わぁ、綺麗」なんて言って窓に手垢をつけながら喜ぶのだ。  もう何百回この景色を見たんだろうか。  僕はこの夜景を見て綺麗とは思わない。ただ、少し励まされる。  この一つ一つの明かりの向こうに僕のように仕事を頑張っている人がいる。 「おい、もう終わったのか?さぼるなよ」  決算期の激務。月初から月末にかけて段々と調子が悪そうにしている後藤先輩がPC画面を睨みつけながらこちらを見ずに声をかける。僕はただ一言「すみません」と言って、同じようにまたカタカタとキーボードをテンポ良く鳴らしていく。  今日は幾つの明かりが僕と一緒に頑張ってくれるのだろうか。  しばらくして、後藤先輩がキリの良いところでさっさと切り上げろよと部屋を出ていった。時計を見るとまだ日は跨いでいないようだ。キリが良い……そんな事優先したら、明日の仕事に響くんだからどうせまだやらないといけないのに。    僕はまた夜景を見た。  まだ明かり達は眼下で星の様に瞬いていた。僕も頑張るからお前らも頑張れよ、なんて思いながらまた提案資料の作成を続ける。少しずつ咳が出てきた。
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