第3章 少しずつずれる日常

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 今日も、何事もなく学校生活の一日が過ぎた。帰りのホームルームが終わり、帰り支度を済ませ、真雪と一緒に教室を出た。  結局、真雪が何の記憶を失ったのか、分からずじまいだ。失った記憶について知りたいが、知ってしまいたくない気持ちもある。だから、会話するのが怖い。知らなくていいことを知ってしまいそうでとても怖い。 「……と、みなと、湊!」  そんな真雪の声で我に返った。 「あ、ごめん。なんだっけ」 「咲良に迷惑かけたお詫びをしたいから、プレゼント選びに付き合えって話だよ」 「ああ、そう」 「なんだよ、その反応。冷めてるな。で、女の子って何が好きなんだろうな。服ってのも悪くないけど、多分プレゼントにするのはそういうのじゃねえよな。もっとプレゼントっぽいやつで、実用性があるやつがいいな」 「じゃあ雑貨とかじゃないかな。最近、雑貨屋さんってよく見るし、面白いのがたくさんあると思うよ」 「さすが、湊。この辺だとどこにあるんだろう」 「駅前のデパートにあるよ。小さい店だけど」 「よし、今から行くか」 「え、今から? やめておいた方がいいんじゃない?」 「なんで?」 「来週から部活出るんだろ。無理しちゃいけないよ」「無理なんかしてねえって。……ところで、部活って、なんだ?(・・・・・・・・・)」  知りたくないことは突然知ってしまうものだと、僕は知った。  僕は次の言葉が出なかった。こういうときに何を言えばいいのか、分からなかったからだ。ここで、本当に知らないのかと尋ねるべきか、知らないことを前提に会話を続けるべきか、ほんの数秒か、考えてしまった。 「湊? どうしたんだよ」 「えっと……なんでもないよ。雑貨屋さん、行こう」  真雪はいつもと変わらない顔をしていた。  結局どっちの選択肢も選べないまま、僕は歩くスピードを速めた。
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