第3章 少しずつずれる日常

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 今日も、何事もなく学校生活の一日が過ぎた。帰りのホームルームが終わり、帰り支度を済ませ、真雪と一緒に教室を出た。  結局、真雪が何の記憶を失ったのか、分からずじまいだ。失った記憶について知りたいが、知ってしまいたくない気持ちもある。だから、会話するのが怖い。知らなくていいことを知ってしまいそうでとても怖い。 「……と、みなと、湊!」  そんな真雪の声で我に返った。 「あ、ごめん。なんだっけ」 「咲良に迷惑かけたお詫びをしたいから、プレゼント選びに付き合えって話だよ」 「ああ、そう」 「なんだよ、その反応。冷めてるな。で、どう思う? 何がいいかな」 「具体的にどんなのがいいの?」 「女子受けがよくて、実用的なやつ」 「じゃあ雑貨屋さんに行こう。この前、駅前のデパートに新しいお店がオープンしたんだよ」 「お前、女子かよ」  そんなどうでもいいような会話をしていた、そのときだった。僕でも真雪でもない声で、僕らは足を止めた。 「河北先輩、こんにちは」  その声に振り向いてみると、スポーツウェアに身を包んだ男の子だった。顔には見覚えがある。真雪の部活の後輩だ。僕は何度かしか面識はないが、名前は知っている。確か、二つ下の城戸(きど)くんだ。
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