第3章 少しずつずれる日常

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南雲(なぐも)先輩もこんにちは」 「こんにちは、城戸くん」  南雲というのは、僕の苗字だ。  城戸くんは僕にも挨拶をすると、真雪の方を見た。 「真雪に何か用なの?」 「はい。河北先輩、今度の日曜日、部活のみんなでご飯に行きませんか? 復帰祝いをしようって話になっているんです」 「俺の復帰祝い? お前が?」 「ええ、コーチも呼んでみんなで。どうでしょうか?」 「嬉しいっちゃ嬉しいけど、お前に祝われてもな……」  どうも煮え切らない答えだ。僕は、どうしたの、とこっそり聞いた。すると、真雪は城戸くんを指差した。 「俺、こいつと面識ないんだよな」  特に変わったことを言うでもなく、そう言った。 「冗談やめて下さいよ、先輩。確かに先月は骨折して休みましたけど、面識ないなんてひどいじゃないですか。まさか、事故でおかしくなっちゃったんですか?」  城戸くんは冗談半分で真雪のことをからかっているつもりなのだろうが、少し敏感になりすぎていた僕には笑えないジョークだった。 「まあ、冗談言えるくらいに元気になってよかったです。今日はもう部活の時間なんで、都合のいい日、メールで教えて下さいね。セッティングしますから」  じゃあ僕はこれで、と城戸くんは軽い足音を立てながら去って行った。 「さて、さっきお前が言ってた雑貨屋に連れてってくれよ。早くしないと遅くなっちまうぜ」  真雪は何もなかったように歩き出した。  いや、実際彼にとってはなんでもないのだ。記憶がなくなったことさえ分からないのだから、こんな会話は日常の一コマに過ぎない。  これが非日常であるということは、きっとこんな風に徐々に表れていく。やっぱり本人に言った方が―― 「そうだね」  一瞬、悩んだ挙句、僕は答えを出せずにそう言った。
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