第3章 少しずつずれる日常

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~★~  僕と真雪は最初から仲がよかったわけではない。初めて会ったのは小学校のときだったが、当時はほとんど話さないような同じ教室で授業を受ける人でしかなかった。  当時の真雪は、今とそんなに変わらない。とにかく真っ直ぐでスポーツ少年。野球、サッカー、水泳……小学生の男子がやるようなスポーツは一通りやっていた。もちろん足は速くて、男子の中でも二本指に入る運動神経を持っていた。  ちなみに僕はというと、ずっと教室の隅で本を読んでいるような暗い子だった。眼鏡もしていたから、随分と暗いやつに見えていただろう。実際、人と話すのは苦手で、友達と呼べる人もいなかった。  小学校六年生のとき、僕は真雪と同じクラスになった。もちろん、彼から話しかけてきたり、また僕が話しかけたりはしない。ただのクラスメイトだった。卒業まできっと何もなく終わるのだろうと無意識のうちに思っていた。  だが、卒業も近づく二月の頭だった。中学受験で休む人が多かったある日のこと、教室に入ると僕の席で真雪が座って待っていた。 「え、えっと……そこ、僕の……」 「お前、(さくら)(おか)中学行くんだろ!」  キラキラした目で言った。 「そ、そうだけど……」 「マジか、仲間じゃん! このクラス、受験組が多いだろ。みんな私立行っちゃうから。でもよかった! 同じクラスに仲間がいて」  真雪は馴れ馴れしく肩を触ってきた。極度の人見知りだった僕は話すことさえできなかったのに、触られることなんて虫唾が走るほど嫌だった。しかし、いやだ、とさえ言えずに僕は固まっているしかなかった。 「俺、中学は行ったらサッカーやるんだ。俺、サッカー好きだし。絶対楽しいと思うんだよ」 「そ、そっか……」 「だから、お前も入れよ。同じクラスになれるか分からないけど、同じスポーツやれば絶対会えるだろ! だから、な! やろうぜ!」  断るつもりだった。スポーツなんて柄じゃない。中学に入ってもあまり変わらない生活を送るつもりだ。目立たず、ひっそりと過ごしていくつもりだった――のに。 「う、う……」  断る言葉さえ出てこない。 「よっしゃ、決まりだな。中学入ったらサッカー部見に行こうぜ。一緒にな」  真雪が強引に決定してしまい、この不本意な約束は数か月後に果たされることになる。
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